世紀のエンタメに完璧に魅了された私は、2021年3月から噴火が観測されなくなる9月までの半年間に、10回以上現地へ足を運んだ。今回は噴火見学シリーズの3回目。
前回のレポートは一年ほど前の4月、4度目に噴火の炎とともに素晴らしいオーロラを見たところで終わった。今回は5月12日分から始まる。以下はオンラインのICELANDiaサロン内に残しておいたメモ書き。日付と簡単なルートが記されている。
—–噴火当初レポート済み—-
1:3月21日 超遠回り 往復25キロ
—–前回レポート—–
2:3月26日 近くの道路の片側車線が駐車場。急斜面にロープ登場。
3:4月18日 山の裏のルートA 。急斜面は未整備。あられ。
4:4月25日 Bルート、オーロラ
—–今回レポート—–
5:5月12日 山裏ルートA。急斜面、臨時整備済み。天候よく最高
6:5月18日 山裏ルートA。臨時整備した急斜面を潰して、新たになだらかな道を設置。天候よく最高。
7:6月2日 山裏ルートA。火口へ近づける山への道が閉ざされる2日前。天気良好。
8:6月6日 Natthagiの溶岩のみを見にいく。記念写真を撮った場所は二日後の早朝、溶岩に囲まれる。—–次回レポート—–
ICELANDiaサロン内から引用+当コラム用にリンクを追加
9 : 6月13日 Natthagiの溶岩のみ。新たに決壊した谷の上から流れ落ちる溶岩をたっぷり見ることができた。
10: 6月17日 Natthagiの溶岩のみ。離れた場所の駐車場から、牧場を通るコースを歩く。まもなく溶岩はNatthagiから次の場所へ出ようとしている気配。
11: 7月2日 旧ルートAから火口を見に行く。Natthagiの溶岩がどの程度進んだかも偵察。
12: 9月22日 旧ルートAを通り、7月2日と同じコースをたどった。
13: 2022年4月5日 Natthagiの溶岩のみ。メイン駐車場使用。
本題に入る前にひとつ。噴火見学のルート地図を探しておくことを前回お約束したので、以下に貼っておきますね。左の地図は2021年4月下旬のもので、右は2022年2月現在の姿。赤い色は火山帯を、紫は溶岩の広がりを示している。これをパっと見ただけでも、いかに溶岩が広範囲に走ったかがわかりますよね!
アイスランド語の「Leið」が「順路」という意味。黄緑色の破線がそれで、以前と現在では変更もあるため、実際に行く人は必ず最新の地図を参考にすること。地図が小さくて見にくい時はクリックで拡大を。
ちなみにこの地図はSafeTravel.isが火山見学のために示しているもの。見学に関する注意事項等もあるので、噴火していてもいなくても、ぜひこのサイトにチェックを↓
5月12日:観察者の丘
この頃から噴火見学のコツも掴み始め、自分達なりの楽しみ方がわかってきた。その上、日照時間は長いし、気温もゆるんできた。鼻水でティッシュが凍ることもなく、氷点下を想定する服装も必要ないので、身も心も軽く、がせん噴火見学が楽しくなっていく。
この日のメモに「山裏ルートA」と書いてある。これは当初のルートAが山と山の間を進む道だったから。けれど、そこが実は割れ目火口が飛び出す可能性のある道筋であることが判明して、ルートを山の側面に迂回させた。
道中、谷間を進む燃える溶岩を横目に、観察者の丘(Spectator’s hill) へ。山肌には決定的瞬間を捉えようと、望遠用の大きなレンズを取り付けたカメラが目立つ。ドローンも多く、正直なところドローンも観光用ヘリも煩くて嫌いだ。けれど、噴火の瞬間を捉えたいという気持ちは理解できる。
現地には穏やかな雰囲気が漂う。「この先有毒ガス注意」という看板があり、レスキュー隊も見守っている。けれど、過剰な注意はしてこない。看板よりも奥に行ったとしても、静かに見守る距離感がとてもいい。本当に危険な場合は「行かないでください」と声をかけられる。
原始の、太古の火を目の前にすると、何もかもがどうでもよくなる。
噴火に心底魅了されるのか、そこには神聖な空気が漂う。目の前の噴火は一歩間違えば暴力的なのに、心に感じるものはとても穏やかだ。そんな気持ちは共通なのか、周囲は平和な雰囲気に包まれる。
抵抗できないものへの畏敬の念。絶対的に逆らえないものを前にすると、服従というのでも、諦めというのでもなく、ごく謙虚な気持ちになる。同時に、心躍る。いや、無理にでも心躍らされる。オレンジのマグマが噴き出す様子に圧倒的で、絶句するしかない。
それから、マグマが噴き出すその様子と海の波のようなザーっという音。これがなかなか聴き物なのだ。けれど残念なことに、ドローンやヘリの音が邪魔で閉口した。
その時の動画で雰囲気だけでも伝わればうれしいけど、力強い熱気を画面ではお届けできず残念。
5月18日:観察者の丘
前回があまりにも気持ちのいい体験だったので、火山のご機嫌が変わらないうちに、前回同様、彼が会社から帰宅した夕方から出向いた。気温もひどく寒くないし、日照が長いから本当にありがたい。
今回のこの噴火、溶岩の粘性が低いため、溶岩は火砕流を吹かず、ダラダラと流れてくれる。目に見えない毒ガスさえ注意すれば、比較的に安全に見学できることがわかっていた。
レスキュー隊は万が一のために待機しているし、ガス濃度は常に風向きを気にしながら測っていた。それでも、本当に「危険」な時以外は人の流れを止めることはなかった。全般的に見学はあくまでも自己責任、自己判断。過剰、過保護な規制がなかったのは、本当によかった。
この噴火が直接の原因でケガをした等は聞いたことがない。たぶん溶岩に近寄りすぎて軽い火傷を負ったりということはあったことだろうとは思う。
当初一番問題になったのは道中が長すぎるため、途中で歩けなくなった輩が多かったこと(最初の2日間のみ)。道中の距離は近くの道路を開放することで半分以下になった。次は骨折が続出。足場が悪く滑って転んだり、打ちどころが悪く骨折者が1日数名。なので、足場の整備も積極的かつ早急で、毎回行く度にルート変更や、道の整備が素晴らしくなっていった。
また、溶岩が谷の下に流れ込み、ひいては道路を侵食してしまわないよう、とりあえずの要塞のようなものが作られたのもこの頃だった。
火山慣れしてきたのと、気候もちょうどよく、お弁当なども持ってきてピクニック気分。「噴火と遊ぶ」をテーマに、いろいろとおバカな写真も撮ってみた。アイキャッチにした写真も、「噴火を持ち上げる」というメチャクチャなテーマ(笑)。
6月2日:観察者の丘
観察者の丘(スペクテイターヒル)への道は、既に警察のテープが張られ、立ち入り禁止となっていた。この丘がいまにもキプカになりそうな気配だった。ここはもう自己責任で突破。よい子は真似しないように。
言い訳と胸算用はこうだ。ここには数度訪れている。もしもこの道へ溶岩が迫ったとしても、そのことに気づけば、ほぼ問題なく走って降りてこられる時間的余裕があると見た。ここが閉ざされたとしても、数時間も待てばたぶん表面は短時間なら通れるくらいには温度が下がるはず(実際に専門家の先生からそのようなアドバイスを受けた)。最悪、ヘリで救助しにきてくれる(これが一番うれしい)。
ここから噴火を目の前にできるのはきっとこの日が最後だろうと、惜しんでたっぷりと楽しませてもらった。同時に、こういう出来事を「楽しい」と表現していいのか、少し違うのではと思ったり。うーん、でも楽しいんだよね、ものすごく。ほら、火遊びって楽しかったよね?!私はあまりやった覚えがないけど、灰皿のところで紙を燃やすと、その変化が面白かった。
火遊びの超大型ヴァージョンというか、もちろん遊びではなく自然現象ではあるけれど、火は人間の原始の何かを呼び覚ますようで、なんとも言えない気持ちになる。特にこうしてゆっくりと楽しむことのできる状況は、人生最高の瞬間なのではと思えて仕方がない。
アイスランドのコロナ規制。ロックダウンはなかったし、個人的にはそれほどの影響は・・・あった。アイスランドに来てからはコーディネーションが主な仕事なので、日本人の往来が途絶え、仕事も全部飛んだ(そしていまだに戻る気配がない)。フリーランスは仕事が不規則なので、無収入の時期があってもそれほど動じない。けれど、今回ばかりは収入がゼロの期間が長すぎてーーーここに書くことはしないけど。
それを救ってくれたのがこの噴火だった。そしてSAMEJIMA TIMESに毎週寄稿しするという自分に課したノルマも励みになった。
噴火は本当にタイミングがよかった。気候がよくなる時に噴火して、たっぷり楽しむことができた。火山噴火を目にすると、その他のことがちっぽけに思えて、自分の悩みがポンと音をたてて勢いよく消滅した。
そして彼の夏休み開始を狙うように、この丘から噴火を眺めることはできなくなっていった。夏休み中はアイスランド中をまわるのに忙しく、噴火地に顔を出せなくなったため、それでよかったのだ。
6月6日:Natthagiの溶岩進行状態
観察者の丘への道は、前回訪れた二日後に溶岩により閉ざされた。遠くから火口を見る気になれなかったので、片道3キロ以上歩いて遠くから火口を眺めるよりも、駐車場から1キロのNatthagiの溶岩を見に行くことにした。
Natthagiというこの谷が溶岩で満たされると、次に溶岩は一般道へと向かうことになる。この渓谷がどの程度埋まっているのかを把握しておくことにした。
この時期、アイスランドの国営放送や新聞社がライブカメラを設置し、世界中の人々が噴火の様子や、このNatthagiに流れ込む溶岩を見ていた。私たちも、ライブカムで溶岩の様子はチェックしていた。けれど、実際に見るに勝るものはない。運が良ければ溶岩が山肌をかけ落ちる姿を見られるかもしれない。
狂喜乱舞を続けた火山噴火。観察者の丘へ行けなくなり、心のどこかでプツンと糸が切れた感があったことは否定できない。けれど、引き続き火山には興味を持ち続けているし、溶岩の動きや質感、色なども思いのほかバラエティがあり、興味が尽きない。(次回に続く)
小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら。